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中村 聡美


中村 聡美(なかむら さとみ:応用心理学部 臨床心理学科)
主な担当授業:心理実習、臨床心理基礎実習Ⅰ
専門:病院臨床、認知行動療法、産業ストレス

「楽しいから笑うのではない。笑うから楽しいのだ。」 
We don’t laugh because we’re happy – we’re happy because we laugh.

タイトルの一文は、アメリカの哲学者、心理学者のウィリアム・ジェームズの名言です。
私たちは日頃、楽しいから笑い、悲しいから泣くと思っているので、その逆は本当かな?と半信半疑の面もあります。ただ、この名言に似た実験が、ドイツのフリッツ・ストラックらによって検証され、「表情フィードバック仮説」として注目されました。実験の中身は、ペンを歯でくわえる(口が"イ"の字になり笑った時の形になる)条件と、ペンを唇でくわえる (口が"ウ"の字になり不機嫌な時の形になる)条件で漫画を読み、面白いと感じたかを被験者に評価させるものでした。結果は、両者に差があり、笑った時の口の形を作った方が、不機嫌な時の口の形を作るより、漫画を面白く感じていました。この仮説は、その後、追試験によって真偽が議論されるところとなっていますが、目のつけどころはなかなか興味深いですね。
ジェームズの名言とストラックの実験に共通しているのは、初めに「笑う」という<行動>があり、行動の結果として「楽しい」という<気分>が生じている点です。

まず行動!のアプローチ

<気分>は<行動>の後についてくるという発想は、行動活性化療法という確立された心理療法のなかで、抑うつ状態の人を支援する際にも役立てています。
少し詳しく紹介をします。私たちは、気分が落ち込んだり不安を感じたりする時、つまりネガティブな気分になっている時は自然と自分が望んでいない行動、自分の世界に閉じこもる行動を選択しがちです。私自身も、何となく気分が沈みがちな日は、だらだら過ごして期限が迫る資料の作成などを先延ばしにしてしまい、一日の終わりにさらに落ち込むという負のループに陥ることがあります。
行動活性化療法は、「内(=こころ)から外(=体)へ」という考え方の代わりに、「外(=体)から内(=こころ)へ」の考え方を用います。体を動かしたり笑顔になったりすると、自然にこころが元気になってくるという考え方です。これはまさに、先に紹介した名言や実験と同じ考え方です。
うつ状態の患者さんは、「ここ最近、気持ちが塞ぎこんでいて何もする気が起きない。趣味だったサイクリングはもうできない。」のようにおっしゃいます。しかし、何もしなければ気分も変わりません。私たちが何かをしたいと思うのは、そのことをやって心地よい気分が生じたからでしょう。このように、私たちの意欲は、行動することではじめて生まれてきます。したがって、やる気が出てこない時は、まず行動をしてみると、その体験を通してやる気が引き出されます。これが行動活性化の背景にある「外から内へ」の発想です。
先のような患者さんも、いきなりハードルの高いサイクリングにチャレンジするのではなく、関連雑誌をパラパラとめくってみたり、自転車を磨いたりするなど、手軽にできることから行動してみるとポジティブな気分が生じ、次のステップにつながることがあります。もちろん、患者さんに適用する場合は、他の心理療法と同様に、事前に十分な見立てをすることが前提です。

皆さんも、やる気にならずに先延ばしにしていることがあれば、まず小さな一歩を踏み出してみると気分も晴れてくるかも知れませんね。

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