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吉田 富二雄


吉田 富二雄(よしだ ふじお:東京成徳大学長)
過去に担当した主な授業:社会心理学、心理データ処理
専門:社会心理学、無意識の情報処理、Internet上の対人関係

ただふれあうだけで好きになる!?

単純接触効果:実画像と鏡画像

「写真で撮った自分の顔」(実画像といいます)と「鏡に映った自分の顔(鏡画像といいます)」は同じではありません。丁度左右反転の関係になっています。
人の顔は左右対称ではありません。(鼻を中心に左右が微妙に違います)。だから実画像と鏡画像では、その印象は微妙に異なります。ではどちらの顔を自身は好ましく感じるのでしょう?

ある学生の実画像と鏡画像をコンピュータで作って本人と友人に「どちらが好ましいか」と尋ねる、そんな研究がアメリカにあります。多くの学生(本人)が鏡画像を選び、友人は実画像を選びました。なぜでしょう? 答えは、何度も触れ合うと好きになるという<単純接触効果>です。私たちは、毎日、鏡に映った自分の顔を見ています。しかし友人は、私たちの実画像に慣れ親しんでいるのです。つまり、人は何度も見た方を好ましく感ずるのです。

また、録音された自分の声を聴いて、がっかりした経験はありませんか。ふだん聞き慣れている声と違うからです。見慣れた顔、聞き慣れた声、使い慣れた机、通い慣れた通学路、それらを好ましく感ずるのは<単純接触効果>によるものです。

実画像(true image)

鏡画像(mirror image)

サブリミナル効果と無意識

私たちは現在、さまざまなメディアを通して、いつのまにか膨大な量の情報を取り入れています。一つ一つの情報による影響は小さなものかもしれませんが、そこでも<単純接触効果>は働いているのです。気づかないうちに、私たちの無意識に情報が入り込み、微妙な影響を与えることがあるのです。
例えば、ある顔写真を瞬間的(100分の1秒)に繰り返し見せると、何を見たか分からなくとも、その顔に対して好意を持つようになる(サブリミナル効果といいます)、そんな研究も報告されています。そうした微妙な影響の積み重ねがどのような効果を生み出すか、それは社会心理学の大きなテーマの1つです。

絵の中のモデルと話ができる!?

肖像画と距離

肖像画と向かい合っていると、いつの間にか絵の中の人物と内面的な対話を交わしはじめている―そんな感覚があるとしたら、あなたは肖像画特有の心理的距離感に出会っているのです。鍵は画家とモデルの空間的距離。グローサー(アメリカの画家)はこの距離を120~240cmとしました。この距離の内側ではモデルの心は際立ち、画家はモデルの影響を強く受けてしまいます。逆に外側では、注意は輪郭とプロポーションに向かい、モデルはボール紙の型のように立体感を喪ってしまいます。ただ 120~240cmという気楽な会話の距離で、モデルの心は肖像画にふさわしい人間的暖かみを持って現れ始めます。

対人距離とコミュニケーション

肖像画家とモデルの作業距離が、絵を見るものと絵の中の人物の間の対話を生み出すように、対人的距離は、そこで働くコミュニケーションの質に影響を与えます。E.T.ホール(アメリカの文化人類学者)はコミュニケーションの実験を行い、声の大きさの変化をもとに4つの対人距離を区別しました。
①密接距離(−45cm)。愛撫・慰め・格闘の距離。無言で見つめあう恋人同士、抱かれた赤ん坊と母親。取っ組み合いの距離。
②個体距離(45−120cm)。相手の気持ちを推察しながら、個人的関心を話し合う距離。
③社会距離(1.2−3.6m)。応接係が客と応対する距離。
④公衆距離(3.6−7.5m / 7.5m-)。講演会の距離。

メディア(電話とインターネット)

しかし、人間の感覚器官の延長であるコミュニケーション・メディアは、ホールの4つの対人距離を流動化します。例えば耳と声の拡張である電話は、遥かに離れた距離「公衆距離」を、ささやき声の行き交う仮想的な「密接空間」に変えてしまいます。

さらに携帯電話は、匿名の空間の中を泳ぎ回りながら、様々な人と密接空間を共有することを可能にしました。そして、われわれの生活に巨大な影響を与え続けているインターネット。アメリカの心理学者キンバリー・ヤングは、インターネットが便利で匿名的、日常生活から逃避できる場所であり、そのために魅力的なのだと述べています。このようなインターネットは、わたしたちの人間関係や自身の在り方(self:自己)に今後もますます大きな影響を与えるでしょう。
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