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最近の興味関心 :「ドードー鳥評定:“Everybody has won.”」(沢宮 容子教授)


2025年1月9日
「ドードー鳥」という鳥をご存知でしょうか?ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に出てきたので知っている、そんな方もいらっしゃるかと思います。かつてモーリシャス島に生息した実在の鳥なのですが、今は絶滅してしまいました。

臨床心理学には、この鳥の名前を付けた「ドードー鳥評定(Dodo bird verdict)」という用語があります。ドードー鳥評定とは、数あるカウンセリングや心理療法は、すべて共通要因(common factors)で説明可能であるという主張のことです(Rosenzweig, 1936)。要するに、異なる学派のカウンセリングや心理療法はどれも効果に違いが認められない、あるいはわずかしか認められないということです。

『不思議の国のアリス』の中に、多くの動物たちが競走をした後、誰が勝ったか分からないという場面があります。このときドードー鳥が、“Everybody has won, and all must have prizes.”(みんなが勝った。だから全員が賞品をもらえる)と言ったことに由来して、ドードー鳥評定という用語が生まれました。つまりカウンセリングや心理療法も、それぞれ甲乙つけがたい、ということになるわけです。

心理検査P-Fスタディの開発者として有名なRosenzweigが、カウンセリングや心理療法の効果に関する研究を概観し、それらの効果には潜在的な共通要因(implicit common factors)が大きいと提唱しました(Rosenzweig, 1936)。Duncan (2002)によれば、Rosenzweigはルイス・キャロルのファンだったことから、論文の副題も、上に引用したドードー鳥の言葉(“At last the Dodo said, ‘Everybody has won, and all must have prizes’)としたのだそうです。

ドードー鳥評定を初めて科学的視点から提唱したのは、Luborsky, Singer, & Luborsky (1975) です。Luborsky et al. (1975) は、カウンセリングや心理療法の効果に関する研究をレビューして、過去の様々なカウンセリングや心理療法を比較検討した結果、改善した患者の割合には有意差が認められなかったと主張しました。その時の論文の副題が、「最後にドードー鳥が“みんなが勝った。だから全員が賞品をもらえる”って本当?(Is It True That "Everyone Has Won and All Must Have Prizes"?)」です。この論文以降、Chambless (2002)の「ドードー鳥にご用心、過度な一般化の危険性(Beware the Dodo Bird: The Dangers of Overgeneralization)」、Hunsley & Di Giulio (2002)の「ドードー鳥か、不死鳥か、都市伝説か。心理療法の等価性の問題(Dodo Bird, Phoenix, or Urban Legend? The Question of Psychotherapy Equivalence.)」など、カウンセリングや心理療法の効果を論じる際に、しばしばドードー鳥が登場するようになります。

ドードー鳥評定には、批判もあり、共通要因に着目するよりも、どの問題に対してどの介入に効果があるのかという視点が重要だと指摘されることも少なくないものの、臨床心理学、特にカウンセリングや心理療法の効果研究において、ドードー鳥の絶滅はなさそうです。

教員プロフィール

沢宮 容子 応用心理学部 臨床心理学科 教授
筑波大学大学院博士課程修了 博士(心理学)
日本カウンセリング学会理事長 日本心理臨床学会常任理事 日本心理学会代議員 日本心理療法統合学会理事 寛容と連携の動機づけ面接学会理事 日本ポジティブサイコロジー医学会評議員 日本認知・行動療法学会
The Motivational Interviewing Network of Trainers (MINT)

(臨床心理学科)
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