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研究活動の紹介: 「金融化とはなにか?-福祉国家型金融システムの形成・変容と金融化の進展」(長谷部孝司教授)


2023年1月18日
1970・80年代以降、国際金融や国内金融において、実体経済の成長を遙かに上回る金融取引の拡大が進みました。資本主義経済における金融取引は、もともとは、商品取引に伴う送金・決済業務や企業への投資資金の貸出など、実体経済の成長を効率化・促進するために発展してきました。しかし、1970・80年代以降になると、金融取引は実体経済の動きから離れて急速に拡大するようになりました。

「金融化」とは、このような「金融の肥大化」と、それが金融機関はもちろん、企業、家計、政府などの経済主体の行動にさまざまな影響を与え、さらには、経済成長のあり方まで左右するようになってきた現象を指します。

では、「金融化」は、なぜ進展したのでしょうか?それは、資本主義経済にどのような影響を与え、どのような意味を持っているのでしょうか?

これについては、「金融化が意味するもの-福祉国家型金融システムの形成と変容」(社会理論学会『社会理論研究』第20号)、「福祉国家型金融システムの形成・変容と金融化の進展(1)~(4)」(東京成徳大学経営学部『経営論集』第8~11号)などで、考えをまとめつつあります。

現状では、以下のように考えています。まず、1930年代以降、資本主義が福祉国家体制を形成するに伴い「福祉国家型金融システム」ともいうべき「大きな金融システム」が形成されました。それは、1950・60年代には産業への資金供給などによって経済成長を支えるという、金融の本来的機能を比較的順調に果たしていました。しかし、1970年代以降、先進諸国で高度経済成長が終焉を迎えると、そのような産業金融がうまく機能しなくなります。その結果、「大きな金融」となった福祉国家型金融システムは、実体経済の動きからは離れてもっぱら金融収益を求める動きを強め、肥大化を進めていきました。そしてそれが、企業や家計、政府のあり方、経済成長のあり方にも大きな影響を与えるようになりました。これが、「金融化」です。

「金融化」は、バブル膨張の温床となり資本主義を不安定化させましたが、同時に、資本主義経済に新たな発展をもたらしました。株式市場を通して、ICTなど次代を担う新企業や新産業の発展(GAFAM)を可能にするとともに、既存産業では事業再編等による生産性の向上などを促しました。また、政府の諸政策とも相まって、住宅金融や消費者信用の拡大を可能にし、賃金上昇が進みにくくなったなかで家計消費の拡大を支え、需要拡大を可能にしました。これらにより、資本主義経済にある種の発展をもたらしました。

しかし、このような経済発展のあり方は、市場経済の自然な動きのなかで可能になったものとはいいがたい性格を持っています。また、資本主義的な経済関係の維持を困難にする要因を生み出しつつある可能性もあります。それらの点を考慮すると、「金融化」は、現状では資本主義経済にある種の発展をもたらしましたが、長い目で見れば、結局のところ、資本主義経済の脱資本主義化を一層進める結果になっていくのではないか、と考えられます。以上の点を、さらに詳細に、また、わかりやすく整理したいというのが、現在の私の研究テーマです。

(臨床心理学科 長谷部 孝司)
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