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研究活動の紹介:「パフォーマンス・アプローチ心理学」(茂呂 雄二教授)


2022年11月15日

フレド・ニューマン
&ロイス・ホルツマン著
『パフォーマンス・アプローチ心理学:自然科学から心のアートへ』

私たちには誰か別の人物になって今の自分を超える振る舞いが可能です。これがパフォーマンスです。例えば赤ちゃんは喃語を使ってお母さんとコミュニケーションが可能です。まだ日本語とは言えない音声なのですが、意味のあるやりとり(のようなもの)をすることが可能です。日本語がまだできない赤ちゃんは、母親と一緒にパフォーマンスすることで、ことばを話すことが「できる」ようにもなれるのです。赤ちゃんは、現在の姿(being)にとどまるだけの存在ではなく、ことばが交わせる別の姿になりつつ(becoming)あるのです。赤ちゃんを理解するには、パフォーマンスの考え方が必須なのです。

このパフォーマンス・アプローチ心理学は、1970年台に、ニューヨーク市の都市部貧困層の子ども・若者を支援する、実践家たちの草の根運動から生まれた心理学の考え方です。貧困や人種差別に喘ぐ、有色の子ども・若者そして大人たちの発達を再点火するにはどうしたら良いかという、発達支援実践から生まれたアプローチです。このアプローチを開拓したのは、フレド・ニューマン(1935-2011)とロイス・ホルツマンは、哲学者と発達心理学者です。1960年台後半からアカデミズムを離れて、ニューヨークを拠点に人々の発達と成長を支援する、コミュニティービルディング活動を行ってきました。ベトナム反戦運動と公民権運動に大きく揺れ動く米国で、大学での学術研究に見切りをつけた二人は、ニューヨークの街中で、貧困や差別などさまざまな困難を抱える人々をエンパワーするアクティビストになったのです。

有色の貧困層の子どもと若者の発達を促すには、既存の科学的心理学を大学の研究室から、ニューヨークのストリートに移植するだけでは何も生み出せない。むしろ心理学を根本的な見直し、新しい方法論の開拓が必須である、そう考えた二人は、ロシアの心理学者レフ・ヴィゴツキーとイギリスの哲学者ルートウィッヒ・ウィトゲンシュテインの考え方をミックスして、新しいアプローチの開拓を始めました。コミュニティービルディング活動の中で、実際にグループセラピーを実践し、子ども・若者の発達をトリガーするプログラムを開発し、時に暴力にまで発展する人種間対立を融和する演劇ワークを進める中で、この新しいアプローチを洗練させ、さらにさまざまな新たな実践を開拓してきました。

このアプローチは、子どもの貧困、ヤングケアラー、引きこもりや就労における苦戦、学びからの疎外など、現在の日本の子どもたちや若者たちの生活の問題にとって、切実な意味があり、さまざまに参考になるポイントを持っていると考えています。

今年度は、以下の書籍の翻訳と刊行が出来ました。

フレド・ニューマン&ロイス・ホルツマン著
『パフォーマンス・アプローチ心理学:自然科学から心のアートへ』
茂呂雄二 (監訳)・ 岸磨貴子・北本遼太・城間祥子・大門貴行・仲嶺慎・広瀬拓海
ひつじ書房(訳)
(臨床心理学科 茂呂雄二)
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